レポート

BtoBにおけるブランディングとは?

商品やサービス、または企業自体のブランディングは、BtoC企業において必ずテーマに上がります。一方でBtoB企業は、ブランディングが検討テーマに上がることが珍しい企業も多いのではないでしょうか。その違いはどこから生まれているのか? BtoB企業とBtoC企業におけるブランディングの違いを通してあるべきブランディングをご説明します。

1. ブランディグとは

ブランディングのブランド(Brand)とは、元々は「焼え木」のことであり、これから派生して焼き木(あるいは焼印)を用いて付けた「罪人であることを示すための烙印」、さらには所有者を表示するために家畜などに押した「焼き印(burn)」を意味するものとなったと言われており、AとBを区別したい、つまり差別化のための行為となります。しかしながら、出発点は単なる差別化のための印(焼印)であったブランディングの概念は、市場の変化により進化し続け、今日に至るため、その背景と流れを正しく理解することがブランドの正しい理解にもつながります。次に簡単にその変遷を、マーケティング研究の学術をベースにご紹介します。

ブランドの概念がビジネスシーンに登場したのは18世紀半ばから19世紀に起こった産業革命と言われています。石鹸や飲料など日常生活に身近なものも規格化された製品が大量に生まれ、全国各地の市場で流通されるようになり、商品名やイメージ戦略といった広告や営業活動と共にブランディングが製品差別化に必要不可欠となりました。

時代は進み、1980年代後半に英国企業においてM&Aが盛んになり、企業価値としてブランドを資本(equity)として捉え財務諸表に計上するに至ります。その結果、「ブランド・エクイティ」概念(1991年Aaker著『Managing Brand Equity』)として整理され、ブランドそのものが企業の価値としてとらえられるようになり、今日のブランディングへと繋がっていきます。今日でも発表される世界や日本のブランドランキングなども主にこの概念に基づいて行われることが多いです。

その後、顧客との関係に立ち戻り整理されたのが、1998年「顧客ベース・ブランド・エクイティ」概念(1998年Keller著『Strategic Brand Management』)です。今日ブランディングを検討する上で基本となる概念になっています。ブランディングは単純にロゴマークや記号の話ではないこと理解する上でとても重要な概念ですが、少し難しく概念の認知や理解は日本のビジネスパーソンにおいてはまだまだ低いと思います。強いブランドを構築するためには、望ましい消費者の反応を生み出すことであると示しています。少しわかり難い概念ですので、以降で解説しながら本稿はこの概念を元にブランディングを整理します。

2. BtoCとBtoB違い

BtoCとBtoBの違いは何でしょうか。一般的には、購買意思決定者の違い、購買単価の違い、購買検討期間の違いなどが挙げられます。確かにこれらは両者の違いの説明としては理解できますが、ブランディングが常にテーマとなるBtoCと、そうではないケースが多いBtoBの違いとなる主な要因は以下と整理できます。

製品スペックでの購買(購買意思決定内容の違い)

BtoBの購買における特徴として、買い手である顧客が欲しい仕様や機能などの要件が明確である場合が大半です。気ままに今日はこの仕様でも良いといった購買意思決定は存在しません。製造業であれば要求するスペックは明確であり、その他の業界でも納期やコストといった要件は明確である場合はほとんどです。つまり、仕様や機能といったスペックで購買するため、ブランディングの要素が不要となっているわけです。もちろん、BtoCにおいても消費者が例えばエアコンの購入時にスペック比較することもあるでしょうが、スペックを正確に比較し、そのような買い方をする方は稀です。

市場の成熟と飽和(市場環境の違い)

日本国内のBtoC市場は、残念ながら人口減少と物価高騰に対応できていない個人所得の低下、つまり実質所得の低下といった三重苦の縮小市場であり、熾烈な生き残り競争が生じている市場となっています。ブランドの出発点は差別化であると述べましたが、正に国内市場は熾烈な生き残り競争として差別化が必要となっており、ブランディングが必要不可欠な状況です。また、豊かな社会が続いたことで、消費者が求める仕様や機能(例えば、テレビは薄型が良いなど)も、既に求める期待値に達しており、高いスペック競争に対して消費者の触手が伸びない成熟市場となっていることもそれを後押ししています。つまり、製品力で競争することは難しく、ブランディングによる競争が必要不可欠なのです。

3. ブランディングの効果

それでは、ブランディングとは一体何かですが、先に記載した“強ブランドを構築するためには、望ましい消費者の反応を生み出すことである”を紐解きたいと思います。

ブランド、ブランディングを検討する際に欠かせないのが、購買意思決定者の立場に立って物事を考えることです。製品やサービスを提供する企業側の視点に立ってブランドを考えてはいけません。なぜなら、ブランドは形あるものではなく、購買意思決定者(消費者)の頭の中にある概念(観念価値とも言われます)であり、人それぞれ異なっているからです。例えば、車のベンツと聞いて、ある方は質実剛健で良い車を作るメーカーだと思い描き、他方でお金持ちが乗る高級車と思い描き、または、日本車は燃費が良いが外車のベンツは燃費が悪いと思い描く方もいらっしゃるかもしれません。正に、この購買意思決定者の頭に浮かぶものがブランドなのです。あの三角形のマークや、かっこいい車、F-1での活躍ではなく、それらの情報を受け取った購買意思決定者にブランドは委ねられるのです。

そこで、先ほどの“強いブランドを構築するためには、望ましい消費者の反応を生み出すことである”が少し理解できるでしょうか。つまり、企業にとって理想となるブランドを購買意思決定者の頭の中に形作る様々な活動がブランディングであり、先のベンツで例えるならば、望ましい消費者の反応を生み出すために、日本車には無い質実剛健で良い車で燃費もよく手頃な値段から買える身近なブランド・・・といった理解がされるように、いい意味で仕向ける活動がブランディングと説明できます。

つまり、どのように自社の商品やサービスが購買意思決定者(消費者)に理解されると、購買へ結びつくかを考えることが出発点であり、それに必要なピースの一つとしてブランディングを考えるのです。もしも、購買へ結びつくのが価格やスペックだけであれば、ブランディングが不要となるわけです。しかし、今日ではBtoBにおいても、圧倒的なスペックで勝負できる企業は限られてきており、ブランディングの重要性が増しているのです。

4. 実践方法

ここまでのご説明で、ブランディングはどのような状況において必要とするか、またブランディングは単純にロゴマークや記号の話ではないことをご説明しました。そこで、ブランディングが必要となった際に実践する実務に役立つステップをご説説明します。

1. ターゲットを規定

ターゲットとする購買意思決定者(消費者)を正しく設定することから、すべては出発します。そのターゲットはどのように頭の中で考えを巡らせ検討し購買意思決定するのか、あなたの企業や商品・サービスに対してどのように理解し捉えているのか、一方で競合はどのように理解し捉えているのか、などすべて書き出し整理してください。

2. 望ましい消費者の反応を設計

ターゲットが購買意思決定するためには、現状と異なりあなたの企業や商品・サービスをどのように理解することが理想なのか、理想の状態を記述し設計します。

3. 理想を実現するブランディング活動

先に設計した理想状態をターゲットの頭の中に形作るために、ターゲットとのすべての情報接点での活動や発信内容を設計します。具体的には、営業資料、営業トーク、広告宣伝、PR露出などありとあらゆる接点において設計が必要です。

4. 実行

先の設計に基づいて、効果的と思われるものから順次情報伝達を実行します。ターゲットの頭の中に理想の状態を形作るわけですから、一長一短では進まないことを予め理解しておくことが重要です。また、今までの理解などを上書きする場合は、それ相応の時間と発信が必要であることも忘れてはいけません。いずれにせよ、目的達成に向けて全方位の活動を地道に推し進めていくことが大事です。

5. レビュー

最後に、ブランディング活動の評価です。ブランディングの目的は売上向上であり、最終指標は売上になりますが、その数字が動くには様々なビジネスプロセスがあるBtoBでは時間がかかることが一般的です。そこで、ブランディングの評価に最適なのは、ターゲットとなる購買意思決定者(消費者)のブランド態度や理解を調査する方法です。理想の状態にどれだけ近づいているのかを、オリジナルの尺度を用いて調査する方法により、ブランディングの進捗が正確に把握できます。また、指標が上がっているにも関わらず一向に売上向上へと寄与していないことが判明した場合は、設計したブランドの望ましい消費者の反応が間違っていたと考えられ、その設計からやり直しを行うチェック機能として役立ちます。

以上、この場では大きな流れをご説明しました。まだ多くのビジネス現場で、売上を上げたいからブランディングを行うとの大号令の下、ステップの3段階目の具体的なロゴマークや記号、広告宣伝活動の制作から出発している企業が多いと感じています。そのような間違いをせず、ブランドに対する正しい理解を持った上で、以上のステップを参考にブランディングを推し進めてください。

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