日本企業のDXは、2025年の崖を誤解していないか?
DX(デジタルトランスフォーメーション、デジタル変革)はコロナ禍もあり、ここ数年で急速に一般名称としてビジネスシーンに限らず社会的にも定着しましたが、その本質と背景にある課題感は薄らいでいるとの危惧も聞こえます。真のDXを行うためにも、概念の変遷と今後の予測を整理します。
1. 国内DXの現状
日本国内は海外に遅れること数年、2019年になりようやくビジネスシーンにおいてDXは流行語のごとく叫ばれ出しました。同時に、国内企業のDXの進捗状況が様々な調査機関から報告され出しました。
大きくまとめると、2019年当時は、大企業が先行してDXへの取り組み開始中であると述べ、調査対象となっている中堅企業以上全体の4割程度が着手、6割は未着手という状態でした。
これが、2020年でようやく5割が着手と、緩やかに実践企業が増え、コロナ禍に直面した中で行われた2021年の調査では7割強が実践となり、多くの企業でDXは実践フェーズへと移りました。
良くも悪くもDX加速は2つ大きな力が影響しました。
① コロナ禍による、テレワークの加速
言わずもがなの、テレワークの世界レベルの導入です。マイクロソフトのサティア・ナデラCEOが「この2ヶ月で2年分に匹敵するほどのデジタルトランスフォーメーションが起こった」と有名な言葉が記憶に新しいですが、特に日本企業にとっては、テレワークやビデオ会議の普及は2年分ではなく10年分以上の変革があったと言えるのではないでしょうか。
② ICT系企業による、マーケティング活動の過熱
2019年のDXブームを火付けしたともいえるのが、各種ICTのソリューション提供企業が口を揃えてDXを高らかに叫び、マーケティング活動を積極的に行ったことも要因です。「ビックデータ」→「クラウド」→「IoT、IoE」→「DX」と業界のマーケティングテーマの変遷が功を奏しました。
一方で、2021年ごろの各種調査で報告が増えたのが、DX実践においてうまくいっていない実態や課題です。特にコロナ禍で加速したDXは、テレワークの普及などといった、ビジネスの効率化領域に留まってしまった点や、DX推進の特命を受けた部署や担当者が、DX実践において行き詰まっている実態が明らかになってきました。
現在は、ある種ここ数年のDXブームが落ち着いた中で、真のDX実現にどう取り組むべきかに目が向きだしているといえます。
2. 変遷と未来予測
日本国内は、総務省「平成29年版 情報通信白書」(2017年)の特集として、“データ主導経済と社会変革”が掲げられ、成長の鍵として「Society 5.0」の実現、それに向けてIoT(モノのインターネット)、ビッグデータ等の技術的ブレークスルー活用が掲げられました。
そして翌年の2018年、経済産業省によって『DXデジタルトランスフォーメーションレポート~IT システム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』が公開されたあたりからDXブームに火が付いたと言えます。
Xは流行語のごとく叫ばれ出しました。同時に、国内企業のDXの進捗状況が様々な調査機関から報告され出しました。
一方、世界的には2014年ごろから各種研究論文やリサーチ会社、コンサルティング会社のレポートでDXが語られはじめ、その概念と必要性が2015年には方々で語られ出していました。つまり、日本は3-5年程度遅れてDX概念が普及したと言えます。
- 2004年
- DXの原点と言われる論文が発表
- 2015年頃
- 欧米中心にDX概念がビジネスの中心テーマの一つに据えられる
- 2019年
- 日本でDXブームに火が付き、実践への移行が叫ばれる
- 2020年
- コロナ禍でDXは社会ゴト化
- 2022年
- DX実践企業が大半になりブーム終焉、一方で真のDX実現が課題に
それでは今後どのようにDXはビジネステーマとなっていくのでしょうか。2000年にインターネットの普及を契機に起きた“デジタル革命”から、“DX”が叫ばれるまでの約15年は、「RPA、EPA」「ビックデータ」、「クラウド」、「XR」、「「IoT、IoE」、「デジタルツイン」、「ブロックチェーン」、「AI」などと様々なテクノロジーがキーワードになっていました。恐らくこの流れに今後は戻ると考えられます。
次の大きな社会的なテーマはテクノロジーが指数関数的なスピードで進歩し、2029年には人工知能の賢さが人間を超え、さらにその先の2045年には“シンギュラリティ”に到達すると予測されていることから、2030年ごろに、DXの次の大きなテーマとして何か世界全体の人類が直面する大変革への対応が叫ばれるのではないでしょうか。
そこへのつなぎとして、GX(グリーン・トランスフォーメーション)、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)が叫ばれる可能性もあり、こちらも注視したい概念と言えます。
3. 真のDXとは
それでは、DXブームが落ち着いた今、向き合うべき真のDXとは何を指すのでしょうか。
キーワードは経済産業省のDXレポートで提示された「2025年の崖」です。「日本企業がDXを推進しなければ、国際的な競争力を失い2025年以降の5年間で、最大で年間12兆円の経済損失が生じる」と。
この一文を見返せば、DXは単なるテレワーク普及ではないことが判ると思います。喫緊の課題として問いているのは、国際競争力を失わないビジネス変革です。
具体的には、各企業が古いITシステムを刷新し、業務プロセスを見直すなどといった業務効率化を目的とする、システムやテクノロジー活用の推進ではなく(もちろんそれもしっかりやる前提で)、デジタルテクノロジーが企業競争力を左右する時代にふさわしく、企業活動全体を進化させ、国際競争に勝ち続ける姿への変革を求めているのです。
つまり、デジタル化が遅れている日本国内の企業が、国内の競争相手を意識しながら、競合のA社よりデジタル化を弊社は進めようと、業務プロセスのデジタル化を推し進めている様な状態では真のDXには当てはまらないと言えます。しかし、現状そのようなDXが日本国内で氾濫している様に見受けられます。企業経営の根幹は変わらず、同一業界の競合企業の動向を注視し、表面的なDX実践を競い合っていると。これでは、国際競争には打ち勝てず、国内で共倒れするDXであり、2025年の崖は解決できないと思われます。
4. 課題と解決策
先に述べた通り、DX実践中の企業が増えたことで、行き詰まるなどの実践課題が表出化しています。社内でDXへの理解が進まず抵抗勢力と言える世代や組織の問題、または、短期的な成果が見られないとして無駄な活動との烙印が押されてしまうなどです。
DXは変革であり、障壁や課題に直面することは当然ですが、誤った方法論を採用しDXを推し進めている企業が多いのも要因だと考えます。それは、現状のビジネスモデルをデジタル化するとの思想でDXを推し進める場合です。つまり、これまで長らく培ってきたビジネスプロセス、そこに根差している業務プロセスに対して、DXを旗頭にデジタル化を推し進めているケースです。
この場合、既に熟成しているといえる業務に対して、無理やりデジタルといった習熟や定着に時間のかかる仕組みを持ち込むことで、ハレーションが起きているのです。DXしなくていいのではないか?DXで何が変わったのか?といった問いが付きまとうこととなります。
一方で、あるべきDXの進め方は、現在の技術革新、国際競争、構造変革されたビジネス社会の中においてあるべきビジネスモデル、プロセス、マーケティングを先に設計し、それを実現するためにどのようにデジタル技術を活用すると、その設計図がビジネスとして成功するのかを考え、DXを推し進める方法です。つまり、ビジネス変革を先に描き後からデジタル技術の採用を考えるという手順です。この方法で推し進めることで、目指すビジネスの形が社内共有され、DXに対する説得性も増します。
2025年の崖に直面するまで残り僅かとなりました。DXという言葉が定着した今こそ、正しくDXを捉え、ビジネス変革を推し進めて行くことが求められています。