レポート

フレームワークの限界を知る

マーケティングや経営戦略の検討において、適切なフレームワークの活用は重要です。しかし、どのフレームワークを使用すべきか迷ったり、適用したにもかかわらず問題の解決につながらなかったりすることはよくあります。 以下では、マーケティング業務におけるフレームワークの利用法をご紹介いたします。

1. 目的と課題の明確化

フレームワークを選ぶ前に、マーケティング活動を開始する前に、明確な目的と解決すべき課題を定義することが重要です。 この「目的」と「課題」が混同していると、正しいフレームワークの活用や、解決策を導く方法を初めから誤ってしまうことになります。

①目的の明確化

目的の明確化は、マーケティング戦略の基盤となる重要な要素です。目的は、組織やブランドが目指し求める具体的な成果や結果を表します。例えば、売上の向上、市場シェアの拡大、新規顧客の獲得、顧客ロイヤルティの向上などであり、様々な観点から設定することができます。 主に、企業経営において売上拡大につながる指標となることが多く、その視点での明確化と捉えることが良いです。

②課題の明確化

課題の明確化は、現在の自社やブランドのおかれている状況や市場課題を正確に把握することです。これには、市場動向の分析、競合他社の調査、顧客ニーズの理解などが含まれます。例えば、競合他社が市場シェアを奪っている場合、それが課題であると認識し、その課題を解決した結果が、目的であるシェア拡大となるわけです。 目的と課題を混同することを避けるポイントは、“そこにはどんな壁(障壁)があるのか?”の視点で検討すること、課題が明確になると思います。

2. フレームワークの選択

マーケティングには様々なフレームワークが存在します。例えば、SWOT分析、PESTEL分析、5C分析、カスタマージャーニーマップ、ブルーオーシャン戦略などです。マーケティングコミュニケーションの世界では、4Pやトリプルメディアなどもフレームワークと位置付けられるでしょう。 各フレームワークは異なる側面を分析するために使用されます。問題や課題の性質に合わせて最適なフレームワークの選択が必要ですが、この選択と正しい利用が難しいのが現実と思います。

ここでは、各フレームワークの種類や使い方は、Google検索や各種書籍で手軽に入手できますので、解説しません。その前に、フレームワークを使う上で、知っておかないといけない重要な視点を説明します。

それは、フレームを生み出したのはコンサルティング業界であると言われている点です。マーケティングや経営の学術(学問)の世界で生み出されたものは稀です。フレームワークが生み出された理由としては以下が挙げられます。

A)ノウハウの共有

コンサルティング業界では、さまざまな業界やクライアントに対して幅広い経験と知識を持ちます。フレームワークは、この経験やノウハウを共有し、組織内での知識の蓄積と継承を促進し、社内ナレッジ化することが可能です。

B)クライアントの理解

フレームワークは、コンサルティングプロセスを明確化し、クライアントとのコミュニケーションを効率化してくれます。フレームワークを使用することで、コンサルタントとクライアントが共通の言語と理解を持つことができ、目標や成果物を明確にすることができます。

C)信頼性と説得力の向上

フレームワークを通じて、クライアントに対して明確なロジックや根拠を提示し、意思決定の基盤となる情報を提供することができます。

このことは、コンサルティング業界で生み出されたフレームワークがダメだと言っているのではありません。これらの背景を理解した上で、そのメリットとデメリットを踏まえた活用が必要であるわけです。

最大のメリットは、単純化と説得性です。

マーケティング活動は、多くの要素やプロセスが絡み合い、複雑なものです。フレームワークは、この複雑さを整理し、マーケティング戦略を構造化する手法として役立ち、その結果、企業内での戦略の策定や実行において組織が意思疎通し易くなります。 つまり、多くの関係者の承認や協力が必要な、“複雑”なマーケティング活動をシンプル化し、意思決定や社内コミュニケーションを効率化することができるわけです。

一方でデメリットは、メリットの反対と言えますが、単純化故の限界です。

現実の成熟した市場は、複雑・多様でダイナミック、時間軸の変化もあり、フレームワークの単一の視点ではすべての要素を網羅することができません。また、皆さんが経験されていると思いますが、一つのフレームワークですべての状況が適用できるわけではありません。

即ち、フレームワークには限界が多く存在し、そのメリットは企業社内での意思決定や意思疎通にこそあることが理解できると思います。 つまり、冒頭の課題を解決するツールとして簡単に答えを出してくれる便利ツールではないわけです。このことを勘違いし、計算機のごとく、正しくフレームワークに応じて数値を入力しさえすれば、答えが導けると思ってはいけません

以上の限界を認識しながら、適切なフレームワークを選択し、柔軟に適用し、現実の状況や要件に合わせて調整するとともに、“答えを導き出す為の整理術”ぐらいに捉えておくことが成功への鍵となります。 よって、一つの解決策を導き出すためには、数種類の異なる整理術であるフレームワークを駆使することから始めてください。

3. 解決策の発見

数種類のフレームワークを活用して得られた情報を基に、いよいよ本題である課題解決策を見つけることになります。先に述べた通り、フレームワークで整理した段階では解決策は導き出すことはできません。 フレームワークが提供する視点や考え方を活用し、洞察を深めます。その際に、フレームワークは、基本的なガイドラインを提供する一方で、創造性や革新性を制限する可能性することも気に留めておくことが重要です。フレームワークに固執しすぎると、新しいアイデアやアプローチを見落とす可能性があります。

解決先の発見法は主に以下となります。

①ベストプラクティスの活用

他企業のベストプラクティスを参考にし、自社の状況に適用することで、新たな解決策を見つけます。業界の垣根を超えた異業種や海外の事例などが参考になることもあり、日ごろから幅広い視野を持ち続けることが重要と言えます。

②クリエイティブな発想法

ブレインストーミングセッションやアイデアのマッピング、逆転思考などの手法を使って、新しいアイデアや解決策を生み出します。こちらも、アイデアとは知識の“新結合”と言われており、日々アンテナを伸ばして幅広い知見を吸収していることが大切です。

③チームの多様性と協力

新結合を具体的に起こす方法と言えますが、異なるバックグラウンドや視点を持つチームメンバーの協力を仰ぐことです。異なる視点やアイデアの対話を通じて、より多様な解決策を導き出すことができます。協力とコラボレーションを促進するために、ワークショップやチームミーティングなどの方法を活用します。昨今では異業種の共創が注目されていることもこの要素が背景になっています。

④プロトタイピング

いわゆるシリコンバレー発の方法として、昨今叫ばれている方法論です。アイデアを具体化するために、プロトタイピングや実験を行います。短期間で仮説を検証し、実際の市場や顧客の反応を観察することで、解決策の有効性や改善点を見つけることができます。この方法は、デジタルソリューションなどではやり易く有効ですが、初期投資が大きい製造業などでは難しい側面もあり、まだまだ実践企業は少ない方法論でもあります。

以上が主な方法論です。 改めて見返すとフレームワークが完成した後に、解決策を導き出す大仕事が残っていることが判ると思います。しかしながら、様々なフレームで整理検討した上で、これら解決策を導き出す検討を行うことで、解決の方向性や精度高い策を見出す手助けとなるわけです。
また、導き出した解決策がベストな選択であると社内組織に説明・説得する際にもフレームワークが役立つはずです。

フレームワークに解決策を委ねることは期待せずとも、解決策を引き出すための整理にはなりますので、まずいろいろと整理検討することから始めてみてください。

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